最近よく耳にするようになってきた、SDGs(持続可能な開発目標)※1ということば。新型コロナウイルス感染症拡大後のパンデミックの中で、持続可能な社会作りの必要が注目されるようになりました。SDGsは、「先進国を含む世界全体の経済・社会のあり方」を対象としており、経済活動による環境負荷を持続可能な水準まで抑えつつ、資源や機会、人権などを巡る格差や不平等を是正することで、「我々の世界を変革する」と宣言しています。
そして、SDGsのもう一つの大きな特徴は、企業を主要な実施主体の一つと位置付けていることです。SDGsはいまや、グローバル企業の経営戦略の指針のひとつにもなっています。
では、SDGsが浸透している社会、ビジネス、真のSDGsとは何なのでしょうか? global insightsではSDGs特集企画と題し、SDGsの取り組みを行っている企業様へのインタビューを連載にてご紹介していきます。
※1.2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール、169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人残さない」ことを誓っています。
第一回目の今回は、まさにSDGsを社会に浸透させる一翼を担っている会社、World Road の市川太一さんにお話を伺いました。
市川太一/Taichi Ichikawa
大学時より196ヵ国が参加する、青年版ダボス会議に参画。青山学院大学卒業後、株式会社アミューズに入社。新規事業を担う会長直下部署にて、インバウンドチームの新設等担当。スタートアップで事業企画を経験後、自分にしかできないことを人生と世界に残すべく、World Road設立。地球を一つの学校にするのが人生のビジョン。「地球一個分の教育」を届けている。
地球を1つの学校に。World Roadの事業内容とは
このミッションが弊社の事業内容をすべて表しています。行っている事業としては、主に教育コンテンツの開発です。地球を丸ごと一個にしたような授業や、その場に居るだけで世界を感じられるような授業や教育を作っていきたいという想いから、コンテンツ開発と導入を民間と自治体、公共機関向けに実施しています。
具体的にはSDGsを起点とした人材育成、新規事業立ち上げ、ブランディングを「共創」を軸に支援しています。SDGsについて、導入部分から、実際にどうやって事業そのものや企業ブランディングに発展させていくのかというところをお手伝いしています。
World Dream Project
官民学と幅広くプロジェクトを起こす中で、手応えとしては、皆さん非常に興味をもってくださっています。前のめりになって聞いてくれる方ばかりなので、そこは素晴らしいと思いますね。
一方、ただやっぱり実践の仕方で自分ごととして、感じてもらいやすいものがあるといいのかなと思い、自然とSDGsに取り組んでいる人たちを見て知ることができる本を制作しました(Word Dream Project)。196カ国の“なぜSDGsに取り組むのかという思い”を綴った本を出版予定(2021年3~4月出版)です。日本国内の小中高の学校に配布して、このプロジェクトを通じて知り合った世界中の共同著者の力を借りて、世界各国の教育の場でも活用してもらえるよう、各国の言語に翻訳をして教科書として寄贈予定です。
例えば、この本で紹介されているある青年は、RAPでギャングを更生するというテーマに本気で取り組んでいます。世界には様々な観点から、SDGsと言わなくてもSDGsを実践している人がたくさんいるので、まずその姿をお見せしたいと思っています。
今は講演活動が多いですが、一番今後やっていきたいと思っていることは、この本を読んでもらい、心から共感する人を探してくださいと問いかけ、それはなぜなのかというところを見つけてもらうような「あり方」に焦点を置いた教育を展開していきたいです。自分が好きな人=自分が尊敬できるか、自分が何かを欲している方向性が似ているかのどちらかだと思っています。また、人を褒める時は、自分にないものを持っているか、自分がすごく大事にしているものを持っているかのどっちかだと思うんですよね。この本から1人素敵な人を探してもらい、なぜ素敵だと思うのか考えると、結果自分が目指している方向に立ち返るので、そういった気づきから、自分にどんな進路があっているのかを見つけて欲しいと思っています。
事業ミッションのきっかけは青年版ダボス会議でみた小さな地球
青年版ダボス会議と呼ばれる「One Young World」という世界196か国のSDGsトップ(当時はMDGs)トップランナーのミレニアル世代のリーダーが集まる世界最大級の国際会議があるのですが、IBPビジネス留学経験後の2014年に参加しました。SDGsのオリンピックのような場所で、本気で取り組んでいる人が196か国から参加しており、SDGsで世界が一つになっているんだな、と肌身で感じました。196か国の人が1ホールに集まる、それは小さな地球だなと感じました。
そこに参加している若者たちはSDGsネイティブな人(=当たり前にSDGsをやっている人)で、それが普通だと思っていたんです。
後々、日本でSDGsへの関心が高まってバッジをつけたりする方が増えて来た時に話してみると、意外とその普通だと思っていた感覚が普通ではないと気づきました。世界と日本との歪みの間でその違いに気づいたという感じですね。
話してみると「SDGsよく分からない」という方が多かったので、具体的な出来事のきっかけがあったわけではないのですが、そういった違いを感じてそこで何かお手伝いできることがあるのではないかと思った感覚です。
そういった意味で海外っていいですよね、先に自分にいい常識を注入しておくという意味で。
この会議で語られていたのが、SDGsでしたし、リーダーシップやダイバーシティといったようなトピックだったので、地球で語られているトピックを全員で話して議論してアクションを起こして、そういう場所を学校のような形で作っていきたいという想いのきっかけになりました。
留学時代の原体験がルーツに
学生時代にIBPビジネス留学のベルビューカレッジコース(アメリカ・シアトル)に参加しました。
僕が留学をした2013年あたりはソーシャルビジネスという言葉が出始めたころで、そこの土壌はあったので、シアトルもソーシャルビジネスがあると聞いて、もともと興味があった分野をIBPビジネス留学を通して深堀していきたいなと思っていました。
実際シアトルに行ってみると、ソーシャルビジネスは、すでに浸透していました。
印象的だったのは、人々がソーシャルビジネスを普通のことと捉えていたことと、昆虫食の事業も定着しているところを見て、世界は進んでいるんだな、と思っていました。
今でこそ有名なwe workでソーシャルビジネスmeetupに行ったりしまたが、そこで会った人たちは「この考え方普通だよ」と言っていて、普通か、って率直に思いましたね(笑)
年代も国籍もバラバラの人が普通に1つの教室に
IBP留学の中で一番思い出に残っていることがあって、実は青年版ダボス会議に参加する前からの弊社のミッション観点の原体験にもなっています。
まず“地球を1つの学校にする”ということは、境界線を溶かすことが必要だと思っていて、つまり、年齢とか国籍とか境界線が溶けることでお互いの国から学び合えるというのが思想としてあるのですが、留学先では1つの教室に20~50代、かつ国籍もバラバラ、職業もバラバラの人が普通に座って、普通に一緒に勉強して、一緒に意見を言い合っていました。この景色を見たときに、この空間がやりたい景色なんだと思い、この場所そのものが地球一個の光景だなと思いましたね。
アマゾンや周辺の大企業の人も普通に座っていて、自分が本気で伝えたいことを聞いてくれるという場面で境界線が溶かされたなと、すごいなと感じましたね。勉強が何歳になっても続くのが、生涯学習だと思いますし、それが日本と違って当たり前に自然にあるということを知れたのがよかったですね。
SDGsに対する捉え方を変えたい。
日本の高度経済を作ってきた企業様などにもワークショップをやらせていただいているのですが、いわゆるザ・日本企業という会社の方々も、真剣にSDGsを取り入れていきたいと思ってくれていると感じられたことは1つ達成感ですね。
とはいえ、SDGsはまだ難しい、という会社がほとんどなので、World Dream Projectをとおして、まだSDGsを方法論として感じている企業さんに人生の中でやりたいことと方法を結びつけることでSDGsはできるんですよ(これって人生論なんです)という解説を僕なりにできたらなと思っています。
この本の中には、僕の思想が全て入っていて、SDGsをどうやろう、ということより、それよりも自分の人生がどんな形をしているのか、というところからSDGsが自然と繋がってくるので、結果的に方法として見えてきます。
一番言いたいことは、DoingではなくBeing。SDGsは、「何かしよう」ではなくて、本当にそれそのものになっている自分に気づくことや、あり方そのものとか、そういう人生に繋げていくことの方が大事なのではないかな、と思います。
多くの方が、やるやらないだったり、目標戦略の中にいれないといけないという考え方になってしまっていると思うので、個々人が自分の人生とどれくらい距離感をなくして(会社といっても人の集まりなので)、「SDGs or 自分」ではなく「SDGs&自分」という境界線を溶かしていけることが重要だと思うので、それが結果的に会社や部署の戦略になっていくと思います。そのSDGsとの境界線を溶かしていけるかどうかということがキーワードなのかなと思います。「行動」というより、「あり方」という方につなげられるかですね。ワークショップもそういったことを話しています。本の中の196ヵ国の人たちのように、「生きがいとSDGsが重なった人生」が増えればいいな、と思っています。
半径5m以内の人を幸せにすること
グローバルな経験があるないに関係なくできるかな、と思っていることが1つあって、自分も他の人も同時に喜ばせることができることをどんどんやっていくことが大事なのかなと思っています。SDGs縮図は、半径5m以内の人を幸せにするということ、自分以外の誰かに思いやりを持つということだと思っています。
例えば環境や水の問題など、何か自分がやらなくても大丈夫だろうと思ってしまうことをやろうと思うことがSDGsができた理由でもありますし、根本的にマインドをSDGsにするというよりは、すでに自分が持ってる誰かを幸せにしたい気持ちが何なのかということを知っていくと、SDGsの17の目標の中で自分ができることが何色なのか見えてくると思っていて、そもそも肩肘はる必要はなくて、普段から自分がどんな人を幸せにしているのかを考えれば、見えくるのではないか、と思っています。
SDGsはカラフルなバッジだけ見て何色やればいいんだろと考えることではなく、あなたはすでにこの色持ってますよ、というところが僕が伝えたいところなので、すでに思いやりを持っていればそれがもうSDGsなんですよね。
事業に関しても、今まで産業は発展しているけど環境を汚染してしまっているところから始まっているので、じゃあ同時に産業を発展させるという自分に対しての幸せと、誰を大切にしたいのか、同時に環境に負荷をかけていないかという社会的な部分をそれぞれをおさえて成り立っているかを考えるとSDGsの事業としても考えていけると思っています。
だから、整理する前から最初から自分の喜びと人の喜びを一致できる人というのは必要な人材なのではないかと思っています。それが一致できて、行動や事業に移せる人というのは会社にとっても求められる人材だと思います。
そういう人の方が結果的に海外に行ったとしても、英語が話せる話せない以前に、人として情熱を感じてもらえるし、素敵だなって思ってもらえると思います。
好きなことから行動することがサステイナビリティの始まり
『好きなことから行動してほしい』ということが一番皆さんに伝えたいことで、大真面目にレジュメにかけそうなことからやる必要は全くないと思っていて、100日引きこもって教科書読んでいるよりも、毎日1人知らない人に話かけて100日間100人に話しかけた方がいい100日だなと思います。つまり正しそうなことをするよりも好奇心がもてる心の方向に向き合える時間をしっかりとってほしいと思います。そうしないと失速してしまうから。
有利不利でやると途中で続かなくなるし、それがサステイナビリティの始まりでもありますね。
「○○に向いてる」という言葉がありますが、その言葉の前提は心が向いてるかどうかがすごく大事だと思います。好きこそものの上手なれ、ではないですが、その真意はここだと思うので、結果的に自分の好きなことや、心が向いている方向に向きあうことで、自分の長所が見えて、起業するでも就活するでもその場でその言葉を言えると思います。
最後にハウツー的な話になってしまうのですが、今後もし皆さんが留学に行くときは、「やることリスト」は作りがちですが、「やらないことリスト」も作ってほしいなと思います。
やることをたくさん書いて、やれなかったら落ち込みがちになるのですが、やらないことを決めると、やることにフォーカスできるようになるし、ぜひ、「こういう留学がいい」と、「こういう留学はいやだ」ということを作ってみてください。
取材後記
最近はSDGsにフォーカスされたイベントや取り組みをよく耳にするようになりましたが、そもそもSDGsに対する捉え方から考えさせられることの多いインタビューとなりました。読者の皆様にもこの記事をきっかけに、ご自身にとっての幸せ、周りにいる大切な人を幸せにする気持ちに気づくところから自分にとってのSDGsを見つけていただけたら嬉しいです。市川さん、素敵なお話をありがとうございました。World Dream Projectを通して世界の196人の取り組みに触れあえることを楽しみにしております!
Author: 大八木 三由希
(株)ICCコンサルタンツ・ビジネス留学研修事部
コンサルタント JAOS認定留学カウンセラー/オーストラリア政府認定カウンセラー