投資で世界と個人を繋ぎ、SDGsへの貢献を目指す
SDGs特集企画の第二回目は、ICCコンサルタンツが運営するIBPビジネス留学修了生の坂本隆宣さんがCFOを務める「クラウドクレジット株式会社」のインタビューをお届けします。同社は、「より魅力的な運用先を探す国とより安定的な投資資金を探す国を結びつけること」をミッションに掲げ、投資を通じた世界、社会の発展に貢献しています。今回は大西さん、武谷さんのお2人にSGDs事業や今後の事業展開についてお話をお伺いいたしました。
大西 志麻里氏
クラウドクレジット株式会社 執行役員CIO(Chief Investment Officer)
マンチェスター大学大学院開発ファイナンス修士課程修了。三井物産株式会社にて新興国のプロジェクトファイナンス組成に従事。その後、世界銀行インド事務所に駐在。インドとアフガニスタンの中小企業・マイクロファイナンス、インフラ金融支援を担当。CIO兼商品部長として商品組成・投資管理・ファンド運用等のファンド全般マネジメントを横断で実施。投資管理・ファンド運用等のファンド全般マネジメントを横断で実施。
武谷 由紀氏
クラウドクレジット株式会社 商品部マネージャー
コロンビア大学 公共経営修士課程修了。証券系シンクタンク、政府系開発金融機関などで勤務後、グローバル事業会社でのCSVファンドの立ち上げを担当。2020年6月より現職。商品部マネージャーとして海外資金需要者との折衝や企業審査などのファンド組成業務等を担当し、社会的インパクト投資に関するプロジェクトをリード。
投資を通じて社会を豊かにする“クラウドクレジット“
クラウドクレジット株式会社では、インターネットを介してお金を借りたい企業と資産運用したい個人を繋ぐ、貸付型のクラウドファンディング事業を運営しています。「世界を繋ぐ金融」を掲げて海外案件に特化し、東ヨーロッパ、アフリカ、中央アジア、南米など新興国の企業との出会いも提供するユニークなファンドです。
現在、当社の投資先のカテゴリーは2つに分かれています。
①オルタナティブ投資 | 海外のノンバンクや銀行、不動産などへの投資。 |
②社会的インパクト投資 | マイクロファイナンス機関(主に貧困層への小口融資をおこなう機関)や未電化地域のオフグリッドソーラー業者などを投資先とし、社会的リターンと経済的リターンの両立を目指す投資。 |
社会的インパクト投資のカテゴリーにおいては、社会的意義のある貸付先に特化しており、当社の貸付けによって現地の生活が豊かになることが投資先の条件です。また、投資家の皆様にお伝えするにあたってその投資効果を可視化できることにこだわり、投資先を選定しています。
新興国の生活基盤をより良くすることを目指す「社会的インパクト投資」
2015年にSDGsが国連で採択され日本に浸透し始める以前から、力を入れて取り組んできた分野が2つあります。
ひとつは、1人あたり5,000円程度からの小口融資を貧困層に貸し付けるとともに、識字教育やビジネス教育も提供する、新興国のマイクロファイナンス機関です。
もうひとつは未電化地域の電化事業や、ソーラーホームシステムを提供している事業会社です。
この2つの分野を発展させ、「社会的インパクト投資」という名称のもと事業を展開し、日本でもSDGsの理解が深まりつつあった2018年半ばより、投資家の皆様にわかりやすく「SDGsに貢献できる投資」として情報提供を開始し、今日まで取り組んできました。
これまでに「1.貧困をなくそう」「5.ジェンダー平等を実現しよう」「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「13.気候変動に具体的な対策を」といった分野に貢献できる投資先を組成しています。現在では、事業者の業種も小水力発電やクリーンエネルギーのエンジニアリング業者まで、その幅が広がっています。
SDGsが採択される前から注力していた“新興国の経済発展支援事業”
当社は2013年に「世界を繋ぐ金融」というビジョンのもとに創業しました。創業以降、日本の行き場のない預金を新興国の経済発展支援に活かし、その経済発展により生じた豊かさを日本に還元することを目指しています。
SDGsの前身であるMDGsと称された頃から課題の1つであった「民間企業による新興国への投資機会の創出」を解決することが当社の存在意義であり、ミッションです。いわば、2015年にSDGsが国連で採択される以前から、金融という領域において世界をより豊かに、より良くすることを目指してきた会社なのです。
「SDGsのために何か特別なことを新しく始めた」という訳ではなく、当社のミッションがSDGsと合致している、ということですね。
世界にはやる気もスキルもあるけれど、金融インフラが整っていないために不遇な環境に身を置いている方がたくさんいます。引き続き、パートナー企業と協力しながらそうした状況を変えることに尽力し、投資を通じてSDGsに貢献したいと考えています。
投資先の企業がその国や地域に新しい価値を創造する
日本では投資をマネーゲームやギャンブルとして誤解されている方も少なくないですが、投資の本質は社会の富の創出であり、イノベーションを加速し、社会全体をよりよくする手段の一つです。
投資資金が企業や団体の活動源泉になり、資金需要者はサービスを通じて社会に価値を提供する。企業が創出した価値が、投資資金と共に、投資家に利子という形で還元される。昨今のコロナ禍においては、投資という形で世界の経済を回すことがますます重要になると考えています。
10年後、20年後に投資効果が現れる社会的インパクト投資
電気が通っていない、お金を稼ぐ術がない、などの生活の基盤となる社会課題は、少しの変化で解決できるものではありません。そのため、社会的リターン(投資先の成長)と経済的リターン(投資利益)を両立させるためには、投資する側にも投資を受ける側にも、長期的な視点をもって取り組んでいく必要があります。
新興国で子どもたちに教育機会が提供されても、その後すぐに彼らが就業機会を得られるわけではありませんよね。それが10年後、20年後にはじめて「インパクト」として可視化されることも多々あるのです。
特に、当社の「社会的インパクト投資」においては投資家の皆様への償還(*1)後に、その投資効果が現れることがほとんどです。つまり、短期視点では社会貢献の実感が得られない。こういった事情を投資家の皆様にご理解いただく工夫が当社にとってのチャレンジでもあります。
現在は投資家の皆様に投資効果をお伝えする手段のひとつとして、「社会的インパクト投資レポート」を定期配信しており、社会的インパクト投資に「長期的な視点」が必要であることをご理解いただく機会としています。
*1: 投資金の運用期間が終了し、精算すること
社会的インパクトを大きくするためにお金の貸し手を増やす
より一層多くの人に、SDGsや社会的インパクト投資をまずは知っていただくための活動が必要です。そのためには、「分かりやすく」紹介し、「簡単に」実践できるようサービス改善が必須です。
投資家が増えると、投資規模が大きくなり、生み出せる社会的インパクトも大きくなります。お金の貸し手(投資家)が増えなければ、借り手(投資先)を増やしても力が分散してしまい上手くいきません。まずは日本国内にSDGs投資家を増やす取り組みを実施し、その後で、色々なセクターで活躍する新興国の事業者の幅を一層広げていきたいと考えています。
SDGs投資のリーディングカンパニーとして
欧州では法人だけでなく個人投資家のSDGs投資(*2)が浸透しはじめていますが、日本では法人投資であっても黎明期のように感じます。SDGs投資が企業CSRの枠を超えない、という印象があり、個人であればなおのこと発展途上の段階です。だからこそ、それを変えるきっかけを作るのが当社のミッションのひとつであり、私たちはこの分野のリーディングカンパニーとして社をあげて尽力していきたいと考えています。
*2:SDGsの各課題を達成することを目的とした投資のこと
「SDGs」を正しく捉え、実行する責任
今は日本でも“SDGs“や”インパクト”という言葉が一人歩きしている部分もあるように感じます。2020年始めに出張で訪れたウクライナでは「グリーンウォッシュ」という言葉をよく耳にしました。“環境にやさしいなどといった言葉を利用して誤解を与え、関心を得る”という意味で、投資先の現地でも問題視されています。“SDGs”という言葉が浸透しつつあるからこそ、私たち事業者側はこれまで以上に情報の透明性や、説明責任を果たすことが求められるようになっていると感じています。
SDGs事業で大切なのは、「自己検証」「粘り強さ」「長期的視点」
SDGsに取り組むにあたっては、自分たちの行いが絶対に正しいと妄信するのではなく、猜疑心を持ち、常に自己検証を欠かさない姿勢が必要です。
社会課題は一朝一夕に解決するような事象ではありませんので、忍耐力、粘り強さ、長期的視点が必須です。目に見える結果が出るまでに、10年、20年かかる領域もあり、投資家や協力企業から理解を得られないことも多くあります。難局にあたったときに、長期的視点と忍耐力で粘り強く事業を継続していく必要があると思います。
単にイベントに参加すること、ボランティアに参加すること、バッチを付けることがSDGs貢献ではありません。次世代のこと、社会のこと、環境のことを配慮した価値判断を持つことが真のSDGs貢献であると考えます。自己の利益を追求するだけでは、世界や社会の分断が加速する一方ですので、想像力を働かせ、周囲や未来を見渡すことが真のSDGs貢献の第一歩ではないでしょうか。
これからの社会に求められるグローバル人材像
持続可能な社会形成に向けて、社会課題を解決する側が対峙する相手、目の前の人が何を課題としているかをしっかり捉えることが最も重要であると考えています。
相手がどういう状況にあって、どういう課題があるかを客観的に把握する力や、自分の価値観にとらわれずに判断する力、日々の様々な事象に振り回されることなく「結局何がポイントなのか」を捉えられる力が重要ではないでしょうか。
海外に滞在歴があって、英語が話せるからグローバル人材、というわけではありませんよね。
世界に様々な社会課題があるなかで、本質的な問題、そして多様な価値観を理解し、自らが動けるひとが、これからの時代に必要とされる「グローバル人材」ではないでしょうか。
編集後記
過去に毎月定額をNPO団体に寄付していた経験がありますが、ただひたすら自分の資金を減らし続けることを継続するのは、個人的には難しいと感じました。自分の利益(少なくともプラマイゼロ)と相手の利益が生まれてこそ、「持続性」が成り立つのですね。クラウドクレジット社の事業を通じてそれが実現できたら、社会、世界はもっともっと良くなると確信しました。この度は貴重なお話をありがとうございました。
Author: 武井 麻衣
(株)ICCコンサルタンツ・ビジネス留学研修事部
コンサルタント JAOS認定留学カウンセラー