留学のリスクが一番低いのは「今」。社会起業家田口一成さんインタビュー
社会起業家 田口一成さんインタビュー
「社会貢献事業はビジネスとして成り立たない」という一般的なイメージを覆し、貧困対策や環境保護、障害者支援などを目的とした事業で600人規模の会社に成長している株式会社ボーダレス・ジャパン。なんと、代表の田口一成さんは私たちICC国際交流委員会が運営するIBPビジネス留学プログラムの修了生です。
IBP留学を経て起業し、「ソーシャルビジネス」の分野で第一線を走り続ける田口さんに、留学から起業に至るストーリーと、Global Vision読者に向けたメッセージを伺いました。
田口一成
株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長。
1980年生まれ。福岡県出身。早稲田大学商卒。大学2年時に、発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。大学3年時にIBPビジネス留学プログラムを利用しアメリカ・シアトルのワシントン大学へ留学。25歳で創業。
現在は、日本・韓国・台湾・バングラデシュ・ミャンマーで世界を変える9つのソーシャルビジネスを推進中。
「What’s your name?」も聞き取れない英語力からの留学スタート
大学2年生のときに「途上国を支援するビジネスをやりたい」と思い立ち、ビジネスを勉強できる留学方法をいろいろと調べていました。そこで見つけたのがIBPビジネス留学で、貯金をはたいて3年生のときに留学しました。 ホストファミリーにはじめて挨拶したときに、「What’s your name?」と聞かれたのが聞き取れなくて、驚きました。「自分はこんな簡単な挨拶すら聞き取れない英語力なのか!」と(笑) 街中の看板や交通標識も分からなかったので、通学手段であるバスの乗り降りでは苦労しました。行き先がよく分からないバスにヤマカンで乗って、とんでもないところに連れていかれて凍え死にそうになったことも。まぁ、楽しくやっていました(笑)
社会人留学生たちの真剣さに感銘を受ける
IBP留学の同期には社会人が多かったのですが、彼らのおかげでサラリーマンに対するイメージが変わりました。 彼らは会社を辞めたり休職をして留学に来ているわけで、授業に臨む姿勢が真剣そのものでした。宿題もしっかりこなしてきて、「これが正しい姿だ。立派だな」と感銘を受けました。僕はというと、学生らしく宿題もしてこないで怠けていたんで、なおさらそう思いました。 当時の僕はいきがっていたので、「サラリーマンは会社の言いなりなのでつまらない」と勝手に決めつけていたんですが、そんな先入観は完全に覆されました。
留学の目的は「ビジネスプランを作る」
授業態度は真面目でなかったかもしれませんが、留学する前に掲げていた「ビジネスプランを作る」という目的に向けての活動は精力的にしていました。 留学先のシアトルはスターバックスの本拠地でもあって、とにかくカフェが多かったんです。それで「貧しいお茶の生産者」を助けられるかもしれないと思った僕は、お茶を買い取ってカフェで提供するというビジネスを考えました。 現場で経験を積みたかったので、ビジネスプランを書いて街中のカフェにプレゼンして回ったんです。 「こんなビジネスをやりたいので、勉強させてください!」というように。 そうしたらあるカフェのオーナーが受け入れてくれて、そこでブレンディングやウェイターなどカフェ業務の経験を積みました。 オーナーは60歳くらいのおじさんだったんですが、週末に一緒に店舗の改装をしたり、仲良くなって色々な経験をさせてもらいました。
帰国後、事業立ち上げのための資金調達に奔走
帰国後、友人たちにも協力してもらいながらビジネスプランを練って、ベンチャーキャピタルなどを回り資金調達に奔走しました。 でも、ベンチャーキャピタルとの交渉などをやっていく中で、自分の力不足を痛感しました。このままでは東京で2、3店舗を展開するありきたりなカフェ事業で終わってしまうという危機感を感じ、止めることにしました。 そこで、2,3年企業で経験を積もうと思い、いったん就職しました。 株式会社ミスミに2年勤め、25歳の時に、株式会社ボーダレス・ジャパンの前身である有限会社ボーダレス・ジャパンを創業しました。
経営者として「人を理解する力」は、留学時代に養った
僕の職業は”経営者”なんですが、600人以上の社員がいる組織のリーダーとして、一番大切なことは、人を尊重し、モチベートするチカラです。そのためには、自分とは異なる価値観を持つ他人への理解が必要ですし、彼らを受け入れ信頼関係を築くための器の大きさも必要。 むしろ、人それぞれの違いを楽しむくらいの感覚がないと、組織って大きくならないと思うんです。小さな限定的な価値観で事業を動かしていては、会社は大きくならない。 そういう多様性を受け入れる感覚は留学時代に養ったと思います。 アメリカでいろいろな人に出会った経験が今に生かされています。たとえば、マーケティング会社の重役についているのに会社を辞めて大学で哲学を学び直そうとしている人とか、言語習得能力が並外れているドイツ人とか、定職に就いてないのに輝いている人とか、今でも印象に残っている人がたくさんいます。 そういう人たちとフラットに接して、「こんな人生もあって、素敵じゃん」と感じました。いろいろな生き方の選択肢がどんどん僕の中にアドオンされていきましたね。それが、今の経営者としての仕事に確実につながっています。
留学すると、必然的に感度が高まる
僕は留学をおすすめします。その理由の一つが、留学すると必然的に物事に対する感度が高まるから。高いお金を払って、限られた期間の中で何かを得ようというマインドになるんですよね。「いろいろな人に会って、いろいろな経験をして、成長しよう」というマインド。 だから、同じ出来事が起きたとしても、日本にいる環境と留学中の環境では「経験からの吸収率」が違う。 日本にいるときとは比べものにならないほど、一つ一つの出会いに敏感になるし、そこから学ぶことも多いんです。
留学するかしないか迷っているその瞬間が、一番リスクの低いタイミング
留学したいと思っても、仕事やお金の心配、英語力の心配で迷ってしまう気持ちはよくわかります。留学をする場合の「リスク」を考えてしまいますよね。でも、実はそのリスク、今その瞬間が一番低いんです。 仕事のことでいえば、来年は出世してもっと責任が増えるかもしれません。給料も上がって、退職してまで留学しようとする気持ちに歯止めがかかるかもしれない。独身ならば、結婚するかもしれなし。結婚しているならば子どもができるかもしれない。留学の決断を後回しにしていると、しがらみや問題は増えていくばかりです。 将来、留学しなくて後悔する可能性があるならば、一番リスクの低い「今」行動を起こすことが一番懸命だと僕は思います。 人生の目的は「お金稼ぐこと」ではないし、「良い仕事に就くこと」でもないと思います。 それよりも、「新しい価値観を手に入れて成長すること」の方が大事ではないでしょうか。そう考えたとき、留学が選択肢としてベターであれば、後悔しないうちに経験をした方がよいです。しかも、留学して後悔することはまずないと思いますよ。
ベストな選択なんでできない。目の前にあるベターな選択をするまで
これは留学に限った話しではないのですが、僕はよく「ベストな選択ではなく、ベターな選択でよい」という話をします。 進むべき道、とるべき選択に迷ったときに人間ってベストを探しがち。だけど、ベストを探したり考えたりしていると、行動に移すのが遅れてしまいます。 「もっと理想的な選択肢があるはず」と決断を先送りにしてしまって、結局何もしていない人もよくいます。 ベストではなくベターな選択をとって、すぐに行動に移せば、その先にさらに見えてくる選択があると思います。だからこそ、そのときに自分の見えている範囲の中で、選択肢を出しきって、一番ベターな選択をすればよい。 これは、人生に悩んだときだけでなく、仕事でも言えること。僕はよく「Better than Best」と言って社員とも共有しています。自分自身で導いたBetterな選択をし続けて、後悔しないようにしていきたいですね。