【シアトルで活躍する日本人ビジネスパーソン Vol.1】清水楡華(学校経営)

シアトルには比較的多くの日本人がいます。その中の社会人の方の働き方は、起業する人やシアトルに本社を持つ大企業に勤める人など様々でしょう。そこで筆者は、シアトルで活躍する日本人ビジネスパーソンに対して取材を行い、そこから何か新たな発見ができないかと考えました。

記念すべき第一回目は、シアトルの近郊のベルビューにて Bellevue Children’s Academy という学校を経営している清水楡華(しみずゆか)さんに取材をさせていただきました。


清水楡華(しみず・ゆか)
Bellevue Children’s academy & Willows Preparatory 設立者及び学長

2000年に Bellevue Children’s Academy(BCA)を設立し、現在700人以上の現地の学生が通う学校へと成長させる。文化促進、特に日本文化と芸術分野の促進にも力を入れており、Celebrate Asia at the Seattle SymphonyJapanese America Society of Washington State などのメンバーとしても活躍している。

アメリカで学校を経営するということ

アメリカで現地の方向けの学校を日本人が経営するのは珍しいと思うのですが、なぜ学校を始めようと思ったのですか。

最初は主人の仕事の関係でアメリカにやってきました。最初の方は子供達には ESL に行かせてたのですが、その内容では英語が伸びないのではないかという疑問を感じていました。そこで自分独自のカリキュラムで英語を教え始めたところ、これが効果的でアメリカ人以上の英語力をつけさせることができました。この事実に周りの友人が興味を持ち、学校を始めることを提案されたのがのがきっかけです。

自分で英語のカリキュラムを組んでしまったのですね。ではそれ以外に、現在の学校の特徴を教えていただけますか。

日本人学校ではないこの Bellevue Children’s Academy ですが、その中にも日本式のサービスの良さを徹底しようと考えています。

例えば、私がこの学校を始めたばかりのころ、教員には「自分の仕事を徹底していれば問題はない」という意識がしっかりと存在していました。ごみ箱のごみがあふれかえっていても、それは清掃員の方の仕事だからということで全く見向きもしない。このことに衝撃を受けたんですね。

私が考えるに、生徒にとって学校は家のような存在でなくてはいけないと思うんです。なのでみんなで協力しあえる家族のような状態を作っていこうと心掛けています。

(Bellevue Children’s Academy の概観。きれいで学びやすそうな環境である印象を受けた。)

先生の考え方から違うのですね。では先生の考え方というより教育の仕方において、学校を経営するうえで感じたアメリカと日本の教育の違いは何ですか。

よく言われていることかもしれませんが、日本の教育は知識を教える教育なのに対し、アメリカの教育は問題解決能力を育てる教育になっています。

錐体の体積を求める方法を教える授業を例にとってみましょう。日本では授業の比較的序盤に公式を教えてしまい、練習問題を解かせるといった授業形態が多いと思います。一方でアメリカではどのように公式を導けるか考える時間を多くとります。

ちなみに私たちは球体と錐体の立体に豆を入れていって重さを比べていくという方法で公式を導いていきました。

教育の根本の考え方から違うような印象を受けますが、アメリカの教育は日本にも取り入れていくべきものだと思いますか?

今後の未来を見据えていくと、取り入れた方がいいと思います。というのも、今後は知識的な部分は IT が処理してくれる時代が来ると考えるからです。

しかし、新しいテクノロジーを考えたりするような Creative な考えをするのは、まだまだ人の力が必要でしょう。その分野においてはアメリカ式の教育が必ず生きてきます。

それはつまり日本の教育は根本から変える必要があるということでしょうか。

そうは思いません。よく言われることとして、大学生になりたての日本人とアメリカ人では圧倒的に日本人の方が知識量があるという話があります。これは誇るべき部分だと思いますよ。なので現在の教育で得られる知識の量を減らしてしまうほどに、問題解決能力を向上させる教育に力を入れるべきではないと思います。

ではどのようにどの時間をとるか。私は反復練習の時間を削るべきだと思います。数学では公式を覚えた後に何回もドリルで練習を行いますよね。もしも「なぜこの公式が正しいのか」という考えにまで至ることができたなら、この反復の時間は必ずしも大量に必要とするものではないと考えます。

日本人ならではの英語勉強法

清水さんはこちらで英語を現地の学生に教えていますよね。その結果ほかの学校と比べても大変優秀な学生たちを輩出されているとうかがったのですが、どのような英語教育をされているのでしょうか。

皆さんは英語を勉強する時に「日本語勉強の仕方とは別物」として考えることが多いですよね。ですが私は日本語のひらがなを教えるときのような感覚で英語を教えています。ひらがなのあいうえお表のような感覚でアルファベット表を利用しています。Aだったら読み方はこうで、それがつく単語はApple、というような流れです。こうやって最初に一つ一つの音を覚えていき、最後にそれらをつなげて発音できるようにするのです。こうしていくことで、こちらの小学1年生が日本の中学3年生と同じレベルくらいの英語力を身につけることができます。

加えて日本の国語の授業で用いられる文法教育方法を導入することによって、英語のライティング能力を向上させることにも成功しています。つまり、日本では「何はなんだ」という基本の文章の書き方を教えたあと、作文などでそれらを使わせることによって、文章の書き方を学ばせます。ですがアメリカでは文章の形(いわゆる5文形)を学ばずに英語の勉強を進めていってしまうことも非常に多いのです。そこで日本の国語の文法勉強と同じように、まず文章の型を教えてライティングの勉強に入っていくことで、一気にライティングスキルを伸ばすことに成功しました。

(日本の算数の教え方も効果的と感じた清水さんは、現地の方にむけて算数の教科書の出版も手掛けている。)

今おっしゃられた中で特にどの部分が日本の英語教育に重要だと思いますか?

まず日本では発音の教育を改善する必要があると思います。よく自分の発音できないものは聞くこともできないという話がありますが、これは本当なのです。ですので、まず日本の英語教育は発音の理解にもっと注力すべきでしょう。

逆に日本の教育で残していくところはどのようなところだと思いますか。

日本の素晴らしいところは、授業の中身というより授業力そのものの高さにあると思います。アメリカの学校の中では、良くも悪くも個人プレーの仕事ぶりが徹底されています。基本的に授業は個人個人が組み立てています。

逆に日本では職員室などで会議を行い、授業の方針を立てていますよね。この仕組みは互いを高めあえる、いい仕組みだと思います。つまり一度英語の教育を改善すれば、全生徒の英語の質を改善することができるということです。

大変ためになるお話、ありがとうございました。最後に将来の目標を教えてください。

まず近くの目標としては現在の学校は middle school(日本でいう中学校)までのものなので、それを高校まで続いた学校制度にしていきたいと思っています。

また大きな目標として、やはり日本の教育を変えたいと考えています。先ほどもお話した通り、日本とアメリカの教育には違いが多々あります。日本の教育が劣っている優れているという話ではなくて、アメリカの優れている部分をどんどん吸収していってほしいのです。特に日本は英語教育を変えることができれば、世界に羽ばたける人材がたくさん出てくると思います。

(日本文化の波及にも尽力する清水さんは様々な団体に対して学校を活動の場として提供している。写真は茶道裏千家淡交会シアトル協会の活動の様子。)

インタビューを終えてみての感想

インタビュー第一回目ということで得られるものは多かったです。まず留学生という立場から、英語の教育法は大変興味深いものでした。もちろん大人になってからの英語勉強法と子供のころに受けるべき英語教育法は多少は違うと思いますが、Bellevue Children’s Academy で取り入れられている英語教育法を自分の勉強にも応用できると思います。また日本の英語教育と違う部分が多いので、これを参考にして英語教育を改革していけば日本全体として大きな変化が見込めるのではないかとも感じました。

一方でアメリカで経営を行うという部分に焦点を当てたとき、日本式のサービスを提供するという部分が参考になるのではないかと思います。現在留学中の私がよく見かけるのは、「日本人は悪い部分が多い、アメリカ人から多くを学ばなければいけない」と思い込んでしまっている人です。もちろん日本人が世界的に活躍するためには改善すべき部分が多くあるのは事実です。例えば、自分の意見を言うべき時に言えないところなどは改善していかないといけないと思います。ただこれで「日本人は悪いところばかりである」という結論につながるのは短絡的であるかもしれません。

今回の清水さんに対する取材を通して、日本のサービスや日本の国語教育を取り入れた経営を行い成功している例を知ることができました。グローバルで活躍するためには、他の国の良い部分を参考にして自分を変えていく必要もありますが、差別化を図るためには自分の「日本人」の部分をいい点悪い点を含めて見つめ直すのが一番効果的なのかもしれません。


筆者:田口 雅也(たぐち・まさや)
一橋大学経済学部 3年生

2016年9月から2017年8月まで、IBP ビジネス留学プログラムにてシアトルにあるベルビュー・カレッジに留学。

留学の目標は「今まで知らなかったことを知ること」。ベルビュー・カレッジでは『Japanese Culture Club』の代表を務めたりする傍ら、IBP のメンバーが立ち上げた日本人留学生団体『CROSSEA』の初期メンバーとして活動を行う。ほかにも Flash Mob、Seattle IT Japanese Professionals など様々な団体に参加。現在、新しいクラブ創立に向けて活動中。

※ベルビュー・カレッジで1年間学んで働く IBP ビジネス留学プログラムの詳細はこちら:
http://www.iccworld.co.jp/ibp/university/bellevue/

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