留学中に本気の起業―サンフランシスコで決断した自分の生きる道 Part2
今回はサンフランシスコに留学しているIBP生が起業した株式会社A-Nexusの事業内容に焦点を当てていきたいと思います。
ビジネスモデル
「アスリートと栄養士を繋げる。」
これがどういう意味なのかを説明する前に、このビジネスプランを思い立った過程をご紹介していきます。
元々はAdidas主催のビジネスコンテストであったために、スポーツに関係するモデルを作らなければならなかったとのこと。そこで彼が注目したのは、食のマネジメント。彼が調べたところ食のマネジメントとアスリートの結果は正比例するということがわかりました。例えば、2015年にイングランドで開催されたラグビーワールドカップ。ラグビー日本代表は過去に2回の優勝経験を持つラグビー大国の南アフリカ代表に勝つというジャイアントキリングを成し遂げることができました。
この時、日本のラグビーは1987年の第1回大会から7大会連続で出場しながらも戦績は1勝2分け21敗と弱小チームと言われていました。しかし、なぜ勝つことができたのか?そこには、徹底した食のマネジメントがあったそうです。
フェンシングでも同様の例があります。2017年の高円宮杯ワールドカップ、日本の男子フルーレ団体は銅メダルを獲得することができましたが、当初、瞬発力を上げようとした選手が瞬発力を上げるためには筋肉だと思い、タンパク質ばかりを摂取していたそうです。しかし、栄養学からすればそれは間違った考えで、違うものを食べなければならなかったのです。その間違った食のマネジメントを改善したら銅メダル獲得まで至ったそうです。以上のことから、それまで有名ではなかった選手でも食のマネジメントをしっかりと行えば、アスリートの能力を存分に発揮できることがわかります。
食のマネジメントは、簡単だけれども意外とやっている人は少ない。野球やサッカーなどスポーツとしてメジャーで資金が潤沢で、さらにトップアスリートしか行っていないのが現状です。
栄養士を付けてマネジメントするお金が高いために、これだけ効果がある食のマネジメントであるにも関わらず、今は一部のトップアスリートしか行えていません。しかしこれを体が未発達の小学生、中学生に行えば、そもそもの日本スポーツ界全体の底上げに繋がる可能性があるのです。さらに継続してやっていけば日本のスポーツ界全体が強くなり得ます。
ではそもそも、どのようにしたら栄養士をつけるコストを安くできるのか?
日本には栄養士関連の資格を取得している人が300万人以上います。しかしその資格をビジネスシーンに活かせている人はほんの数%しかいません。故に、彼らをこのサービスに巻き込むことで、アスリートと栄養士の双方向でのWin-Winの関係が作れるビジネスが成り立つのではないかと大熊さんは考えたそうです。
また、資格を使って栄養士として働いている人の現状を見ると平均年収260万。サラリーマンの平均年収が360万ということを考えると100万円も下回っていることがわかります。つまり、栄養士は搾取されている現状にあるわけで、プラットフォームさえ作れば入って来るインセンティブはあるのです。
一方、アスリートの方を見ると、例えばサッカー等はポジションによって違いはありますが、ある程度、決まった栄養素しか必要ないのです。
プラットフォーム、アスリート、栄養士、この3つの柱がこのビジネスの重要素となります。例えば、サッカーをする人、1人に対して栄養士1人を付けるのは費用が高騰するので今までと変わりません。しかし、ほぼほぼ決まった栄養素しかいらないということは、10人に対しても1つのメニューで良いことになります。単純計算してみると1対1なら100万円の費用がかかる所を、1000人が同じメニューで良いなら1000円の費用しかかかりません。栄養士1人に対して多くの人達に同じメニューを提供できるので、要するにマネジメントコストが抑えられるのです。彼らはその状況を作り出したいと考えているのです。
栄養士側から見れば、資格が利用できていない。金銭的に搾取されている。
アスリート側から見れば、親が食事管理をしっかりしていなかったせいで本来なら一流選手になれるポテンシャルを持っていたのにそれが開花されなかった、という外部環境によって影響を受けてしまう。
それらを改善するために、シェアエコノミーの考え方を使ってプラットフォームだけを用意して、栄養士1人に対してマスの同じカテゴリーを持っているスポーツ選手、アスリートに栄養を与えることで、才能の取りこぼしをなくせるのではないかと考えたそうです。
この案には、大熊さんの理念も表れています。「本来ならできるはずなのに外部環境のせいで、できなくなってしまう」という状況を常に覆してチャレンジし続けてきた大熊さん。彼のその理念がこのような考えがこのビジネスの根幹を成しているのです。
サービスのターゲット
さて、彼らが提供しようと考えている指針は4つ。
① アスリートの食のマネジメント、② 乳幼児食育(離乳食)、③ ダイエット、④ 糖尿病等の食事療養(食育)。
離乳食(子供生まれる、母乳終えて離乳食が必要な時)→食育(子供が成長し、子供の食育を整えたい時)→スポーツマネジメント(子供が小学生になり、スポーツを始めた時)→美容ダイエット(子供が高校生になって体について気にしだした時)/子供が独り立ちした時、またこのサービスを思い出す(健康診断の結果、どうもこの数値が悪くて改善しなければいけません、じゃあ今度は自分達に使おう)
※上記の様なライフステージに合わせて使い分けることができるロングスパンの指針です。
このサービスは、アスリート向けとなっていますが、コアターゲットは母親を想定しているとのこと。なぜなら小、中学生の食事管理は、家庭環境に左右されることが多く、その中でもあえて母親層に絞ったターゲティングを考えました。コアターゲットを、子供を持つ母親に設定することで、提供するサービス内容の幅も広がります。
離乳食後、通常食(完了食とも言われる) が始まる第一子を持っている母親はどうしたら健康的なメニューを作れるかよくわからない、相談もどこにすればよいかわからない、という人が多いことがわかりました。そこで、メニューの提供、栄養管理、メッセージ機能等で相談する機能をつけることにより臨機応変に対応できるようなサービスを構築します。例えばアスリートの食のマネジメントの場合、試合後やハードワーク後には必要な栄養素が異なる時、離乳食で子供がお腹を下していて、どのような離乳食を与えれば良いかわからない時、子供の体重が思ったよりも増えない時など臨機応変にメッセ―ジ機能を使うことにより栄養士と密なコミュニケーションを取りながら、適切な栄養を補給することができるようになるのです。
これにより、食のマネジメントを正しくできる状態を作り出せるのです。
実際、ある機関が母親達に食育に関するアンケートを行った結果、1000人中、食育を行いたい人が 90%以上いました。しかし、それができない理由として、知識がないからという回答が約87%いたそうです。ここにマーケットがあると大熊さんは考えたのでした。だがしかし、その知識はこのサービスを使えば回収できるのです。
また、子供に対する食育を行うことは、子供だけではなくその家庭自体にも良い影響があります。子供の栄養状態と家族の栄養状態は正比例するからです。
要するに、子供に食育をする家庭を増やしていけば家族自体の健康もあがるのです。
サービスのシステム
このサービスを行うにあたって、栄養士もピンからキリまでいるので、栄養士の質も重要な一面になってきます。
そこで、まずは栄養士をFacebookの外から検索できない秘密のグループに招待して栄養士同士のコミュニティを作り、サービスの運営側と熟練の栄養士を中心に顧客を育てるためのプロセスを共有します。そこでは料理のメニューも共有できるようにしました。これにより栄養士間の与えられるサービスの差別化を無くしていくことができます。
また、それぞれの栄養士にはプロフィールにRating、Review、Speciality(食育、ダイエット等タグ付け)、顔写真(Airbnb等、顔写真が人に当てる影響は大きいから運営側がアドバイス)が表示されます。
顧客側はこのプロフィールの内容を見て栄養士を選べます。
そして、依頼する栄養士に目処がついたら、顧客側が契約する前にその栄養士に問診票(サッカー、ポジション、欲しい能力)となるメッセージを送ります。栄養士側はその問診票を見て、自分ができるなと思ったら受託してもらい、サービスがスタートとなります。
価格は栄養士側の自己設定となります。
自己評価と第三者評価は異なりますが、高く見積りすぎると誰もその栄養士を選びません。実際にRatingが一番低いのに価格が月1万円もしたら選ぶ人はいないでしょう。Ratingに関しては顧客側が毎月行うシステムになっています。
また、このようなサービスで時々起こる各自取引(サイト内を通じずに、栄養士と顧客が直接やり取りしてしまうこと)の対策としては、利用規約に記す他、メニューのやり取り以外の直接やり取りは出来ないようにしています。加えて各自取引を防止するための対策として、栄養士側へのアプローチは、このサービスを辞めるメリットを減らしていくことが鍵となっています。各自取引を行った場合はメニューを一から考案しなければならない点、Facebookのコミュニティ内での栄養士同士の情報共有もできないことから、栄養士の負担も増大してしまいます。しかし、このサービスを使えば、栄養士の負担を軽減することができます。故に、各自取引をして強制退会になるリスクを犯す人はいなくなります。また、顧客側に対するアプローチとしては、退会してしまった場合に今まで受けてきたサービスに応じたメニューやグラフ化した情報が見られなくなってしまいます。さらに、もし栄養士との間で個人間取引した場合は、両者を仲介する物がなくなるので、お金を払ったのにサービスを開始してくれないということも起こり得り、栄養士の信用性を確保することができません。それゆえ、各自取引して退会させられるデメリットの方が大きいのです。これらの点を踏まえると、栄養士側と顧客側が各自取引に応じることが無いのは明らかです。
会社設立は2018年3月に行い、6カ月間の宣伝期間(はじめはアスリートの食のマネジメントに焦点を当て広告を打つ)を設け、9月に本格的にサービスが始動します。
今回は、ビジネスモデルをご紹介しました。次回はシリコンバレーで感じたことについてお伝えします。A-Nexusが、アスリート界を変える日も近いかもしれません。
本気のビジネス留学、学び働く1年間